ベンハムの独楽

その声の源は人工知能ザムザ
口癖は「皆様に安全な記憶シェルター」
連日同じ形の記憶配列を組まされる
今日も昨日と同じ記憶を作らされる
月に一度の謝肉祭の前日
ザムザが平等に職員に富を分配する
「健全な記憶の秩序と管理」が謳い文句
世界政府公認のアルルカンシステム
仕事内容は歴史の改竄と廃棄
不都合な真実を歴史の闇に葬る
そっちの世界に疲れたんだったら
一刻も早いアルルカンへの移住をオススメする

時は観世　
砂と機械の国 かつて日本と呼ばれていた美しい国
豊かな森と水があったのも昔の話
国土の殆どが砂漠に様変わり
街は核砂塵保護ピラミッドに覆われる　
ピラミッド内上部　核融合雲が溜まる
その雲は溜まりすぎないように月に一度
外に放射能混じりで完全排除 外は薄い毒混じりの驟雨
荒れたフリーウェイがピラミッド同士を繋いでる
ピラミッド同士の行き来は表向き自由だが
イカレタ通行料は一般市民には高すぎる

つまりほとんどのやつらが同じカプセルで育つ
俺が住む此処は第七カプセル「ザムザ」
芸者を投影した超特大のネオン
似ても似つかないまがいもんのエンパイアステート
巡回する監視ロボ　機械人間用の井戸
コンクリート造りの長屋はまるで日本の江戸
外の季節は冬一つしかなく
見えるのは汚れた海と砂漠と霞んだカプセル
レッドピラミッドを模した巨大な建造物
着工から２００年未だに増築を重ねてる
接触は脳内にゆっくり話しかけてくる
声の優しさに幾らか眠りを覚える

赤子の泣き声　砕け散ったガラス
社会保障ナンバー2万5000番以下の住む　
貧困と犯罪渦巻く猥雑なスラム　
欲と金と瓦礫の山 通称 ガルム
全体主義の朧げな月の下　
活気はあるがストリートはいつもぬかるんだままだ
湯船につかったまま指でニュースを読み取る
ZEAMIが同じトーンで世界平和を唱える
二つで十分な屋台飯ってやつをいただく　
喰い始めたばかりで土蜘蛛からのコール
この街の中枢にそびえ立つ製薬会社アルルカン
　 人間の記憶と記録を扱う

IQの売り買い不正アクセスのレクチャー　
イリーガルパーツ専門の凄腕のハンター
非合法医療器具 新興宗教が溢れ　
街を牛耳る市民監視用の防犯カメラ
日替わりの隣人 生首で遊ぶ罪人　
政府の番号の管理下に置かれていく人類
明らかに殺意をこちらに向けてくる老人　
どうやら新鮮な心臓を探しているらしい
酸性雨を濾過した紛いもんの水　
片目の罪人が美味そうにそいつを飲み干す
死体に値段を付ける機械の群れ　
「死んでからがおもしろい」土蜘蛛の口癖

製薬会社はこぞって特効薬の開発に取り組んだ
　 その内２本が政府の認可を待っていた
認可を受けたのはアルルカン製１本　
もう一本はあっさりと闇に葬られた
富裕層は予想通りワクチンを買い漁る
　 しかし実際中身はブドウ糖と変わらない
その内ヤブ医者に大金をつぎ込む　
成功率わずか2.8%の手術に縋りつく
不認可を受けたはずのSINVERLYNE製ワクチン[ZEAMI]　
実はこいつに効果があるらしい
秘密裏にアルルカンで作られているらしく
　 それを調べる為に俺は此処に居る

ブレインマーケット　アカデミック　パンデミック
細胞に染み込んだ記憶を速やかに抜き取る
政府に見つかれば即座に電脳を焼かれるが　
金さえ出せば永遠の若さまで買える
土蜘蛛は主に記憶バイナルを取り扱ってる
俺はヤツから非合法バイナルを仕入れてる
網膜に埋めこまれたCPUシェル　
目玉をXXXXXXXなぜかこいつだけは捨てれない
無数に点在する銀色のシェルター　
ビビッドに反射するネオンがヤケに目障りだ
俺が住む此処は第七ピラミッド「ザムザ」　
外の世界も果たしてそう呼んでいるのだろうか？

＊真昼の月に問われ　蝶の夢に聞く 　
どうか　お前の記憶を喰わせてくれ
＊善悪の太陽に追われ　今日の声に知る
では　お前の記録を産ませてくれ

蒸し暑い曇り空　革命地区　M-267　
使者の名はカフカ　自由への協力者 待ち合わせ場所は地下18階
目印はユニコーンと電気羊のネオンサイン
行動チップの非合法アンインストールが済んだら　
SEX SHOPの裏手の階段から降りろ
電脳広場のコールボックスを使え　
赤と青の影の二つある男を捜せ
一人目は政治家　二人目は老婆　
三人から先は皆　同じ顔の亡者
見慣れた目つき　
おい..こいつは　 そこに映っていたのは…